フードストーリー

Story

フードストーリー

原動力となる女性たち
-食を守ることは、環境を守ること-

 私は札幌に住むアイヌの女性です。月山佳代と申します。私は、2017年に設宜されたアイヌ女性への差別撤廃に取り組む団体「メノコモシモシ」の理事をしています。メノコモシモツの活動では、アイヌ女性の実態調査やアイヌ文化を楽しく紹介する「メノモツ・チャンネル」の動画編集を担当しています。またハローワークのアイヌ相談員としても働いておリ、アイヌの求職者の支援や、障がい者の職業相談を行っています。

 

 2020年、メノコモツモツの活動の一環として、アイヌの食文化の保護・継承を目的とした【スローフードコミュニティ:アイヌ食を守るアイヌ女性の会】が設立されました。先祖から受け継いだ自然の恵みに感謝する循環思想に基づく伝統食の継承、アイヌの食材や食文化を活かした新しい創作料理の普及、そして多くの人への継承を目的としています。

 

 アイヌの料理は、自然の中で採取した山菜などを使って作るのが一般的です。しかし近代化した社会では、アイヌの伝統料理を作るための十分な食材を手に入れることができません。例えば、都市開発によりアスファルト舗装が増え、植物が自生するのに適した環境が少なくなっています。そのため、私たちはより多くの労力と時間をかけて、必要な野草を探さなければならなりません、そして採れたとしてもその量は十分とはいえません。自分の土地で栽培を試みてるアイヌの人々もいますが、やはり個人の努力には限界があります。また、自生している植物と違い、人工的に栽培されたものは、土壌によって味が違うことだってあるかもしれません。こうした理由から、アイヌの食の伝統と知識を後世に伝えることができる人は少ないのが現状なのです。

 

 メノコモツモツのアイヌの伝統食を維持するための活動は、少数でスタートしました。時間的な制約もあることから、活動を継続するのは簡単なことではありません。なぜなら、私を含め、ほとんどの人がフルタイムの仕事を持ちながら、ボランティアでこの活動を行っているからです。

 

 しかし、私たちの信念はとても強いのです。実は、この活動に参加する前は、私はアイヌの食についてあまり詳しくありませんでした。しかし、活動を続けるうちに、アイヌの人たちが食べてきた植物について知ることができました。自然の中で植物を見たり、フチ(女性の年長者)の話を聞いたりすることで、より身近に感じ、愛着を持てるようになりました。また、今回のワークショップに参加したことで、アイヌ女性たちが活躍できる場を作っていきたいという思いを強くしました。女性は、伝統を継承し、世代や性別を超えたつながりを生み出し育む存在です。

 

 今日私たちが直面している状況を見てみると、代々受け継がれてきた生物種の消失の危機や、自然環境破壊が今なお止まることなく進行しているように思います。人間もまた生態系の一部であることを、私たちはより一層肝に銘じなければなりません。私たちが生きているのは、自然がまだかろうじてそこにあり、私たちの生活を支えてくれているからだと感じます。これからは、「食を守ることは環境を守ること」という本質的なメッセージを込めて、私が学んできたアイヌの食を伝え続けていきたいと思います。そして、まずは伝統的なまぜもののレシピ、ラタシケフ゜作りから始めたいと思います。

 

スローフードコミュニティ:アイヌ食を守るアイヌ女性の会

理事月山佳代

ここに共有されている一つ一つのストーリーは、「(先住民である)自分自身のこれまでの歩みや取り組みを、個人的な喜びや葛藤も含めて伝えることで、この地球上のどこかで同じ様な壁に直面している仲間を励ますことができれば」「これから自分のコミュニティでも何かを始めたいと思っている人が、勇気をもって一歩前に進むきっかけになれば」という願いのもと、公開されています。

一方、先住民が大切に守り培ってきた文化や資源の盗用や、商業化による搾取の歴史は現代もなお続いています。そして、それは人々の無意識の内に起こっていることも多分にあります。ここに掲載されているストーリーや、登場する人や物・文化について、何かご活用をお考えの方は、無断で使用することなく、本人または事務局に一声かけ確認を取るなど、互いに敬意を払い、気持ちの良い関係を育んでくださいますよう、心よりお願い申し上げます。

国籍や民族、分野の垣根を超えて、よりよい社会づくりのために課題解決のために取り組む仲間として、情報交換をし、励ましあいながら、手を取り合って一緒に進んでいけることを願っています。
ご一読いただき、ありがとうございます。