フードストーリー

Story

フードストーリー

食料安全保障のための生物多様性保全

 プルット・ケラマイ(竹筒で炊くお米の料理)は、インドネシアのカリマンタン・バラット州カプアス・フル地城のイバン・ダヤク族が、年に一度、米の収穫を祝う際、米と地元の食材を使って作る料理です。プルット・ケラマイの材料を入れる竹を覆うのにパンダンリーフも使うので、竹やパンダンの混ざったとてもユニークな香りがします。この地域に住むダヤック・イバン族の多くは、伝統的な焼畑農法(私たちの言語では‘‘ラダン’’と呼びます)を今も続けています。

 

 私はアバウという村に住むダヤック・イバン族のイマヌル・フダです。私たちは代々、生きるために“ラダン’’を実践してきました。ここで最もお伝えしたいのは、野や森での農作業は、食料生産のためだけではないということです。作物を植え栽培し続ける、より重要な目的は、地域の種子、特に米の品種の多様性を維持するということなのです。農業以外にも、私たちは森林からも栄養価の高い食物を得ています。タンパク質、炭水化物、ビタミン、そして料理に使う様々なスパイスなど、多様で豊富な食材を提供してくれる森林は、古くから私たちの食の安全を支えるために欠かせない存在です。そのため、「森を守ることは、生物多様性と食料を守ること」と昔から言い伝えられてきました。

 

 しかし、近年、大規模なアブラヤシのモノカルチャー農業の拡大により、この地域の伝統的な農地や森林の面積・規模は急速に縮小しています。また、農地整備のための野焼きが、自治体により禁止あるいは制限されています。このように農習慣が制限されていくことで、関連する技術や知識も希薄化・弱体化してしまっています。こうしたネガティブな要素が重なり、人々は田んぼや森林から遠ざかり、望むと望まないとに関わらず、アブラヤシのプランテーションで労働者として働き、生計を立てる人々も増えてきました。田んぼで働く人が減り、耕作可能な土地が減り、森林伐採が進むにつれ、環境の持続可能性と地元の米の品種の保全にリスクが生じるようになりました。

 

 そこで私は、地元の食文化を守り、復活させるための活動を始めました。具体的には、地域住民の森林の持続可能な利用・管理能力を高める活動や伝統食の調理法についての学びの機会の創出、地元・地域・国レベルでの伝統食材のキャンペーンやプロモーション、そしてプロの料理人への伝統食材の使い方の指導やフュージョン料理の開発など、より多くの人が伝統食材の魅力について知り、食べる機会をつくる様々な取り組みを行なっています。

 

 私はここで、私たちは自然の一部であるということを強く主張したいと思います。森を維持するといっても、人間が森から出ていくという話ではあリません。私たちは、政府の森林管理局と協力して、地元の適任者に森林管理のライセンスを認証するプログラムを開始しました。ライセンスを取得した人たちは、‘‘森の中の経済'’というコンセプトのもと、蜂蜜やラタンなどの森林で採れる食材を使って小さなビジネスを展開することができます。自然の生態系に関する十分な知識を学び、持続可能な方法で森林から恩恵を受け生計を立てていくことができれば、彼らはアブラヤシプランテーションでの労働に興味を持たなくなるでしょう。そして、自分たちの森や土地を守るために行動しようという気持ちが強くなるでしょう。大学で森林管理を学ぶ若者も出てきました。

 

 彼らは、生物多様性と食料安全保障のために森林を守りたいという一心で、コミュニティに戻ってきて、森林管理に携わっているのです。

 

イマヌル・フダ

Food biodiversity and culture of

Kapuas Hulu Slow Food Commun ity代表

PRCF-lndonesia ディレクター

ここに共有されている一つ一つのストーリーは、「(先住民である)自分自身のこれまでの歩みや取り組みを、個人的な喜びや葛藤も含めて伝えることで、この地球上のどこかで同じ様な壁に直面している仲間を励ますことができれば」「これから自分のコミュニティでも何かを始めたいと思っている人が、勇気をもって一歩前に進むきっかけになれば」という願いのもと、公開されています。

一方、先住民が大切に守り培ってきた文化や資源の盗用や、商業化による搾取の歴史は現代もなお続いています。そして、それは人々の無意識の内に起こっていることも多分にあります。ここに掲載されているストーリーや、登場する人や物・文化について、何かご活用をお考えの方は、無断で使用することなく、本人または事務局に一声かけ確認を取るなど、互いに敬意を払い、気持ちの良い関係を育んでくださいますよう、心よりお願い申し上げます。

国籍や民族、分野の垣根を超えて、よりよい社会づくりのために課題解決のために取り組む仲間として、情報交換をし、励ましあいながら、手を取り合って一緒に進んでいけることを願っています。
ご一読いただき、ありがとうございます。