フードストーリー

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文化的価値の真正性

 台湾の花蓮にあるアミ(パンツアハ)族、馬太鞍(ファタアン)コミュニティの29歳の若者として、私が取り組む今回のプロジェクトは、コミュニティの人々が私たち自身の文化的価値の信頼性を確認するプロセスになるのではないかと考えています。

 

 私はアミッ・オレイ・パカドダン、つまリカカタアンの子孫で、崇拝と儀式を担当してきた一族です。私は、伝統的なヒーラー、シカワサイ、そして儀式について学び、研究してきました。数年前に現地調査をした際、この伝統的なデザート「チリペダイエンモ」のことを知り、このデザートを作る習慣を復活させ、継承していく責任を感じました。

 

 かつてチリペダイエンモは、結婚式などの特別な儀式でのみ作られ、地域の宝とされていました。チリペデイエンモを焼くと、香ばしい香りが漂います。このようなデザートを作ることができるのは、一族が繁栄している証だよと長老たちは言っていました。また、私が「チリペダイエンモ」を復活させようと思ったのは、私が結婚適齢期を迎え、ファタアン族の伝統的な結婚式を挙げたいと強く思ったからです。チリペダイエンモは、結婚式に欠かすことのできない重要な要素の1つなのです。

 

 チリペダイは、古くからある赤いもち米の品種の名前です。現在では、栽培している人はあまリいません。私たちが日常的に食べている現代米は、1年に3回収穫できる品種です。しかし、古代米のチリペダイは年に1度しか収穫できず、栽培規模も量も少ないのです。ある時、コミュニティの長老にインタビューしたところ、「子どもの頃に食べたチリペダイの味が忘れられない、あの味をもう一度味わいたい」と言われました。彼は、何十年も保管していたチリペダイの種を丁寧に出してきてあの味をもう一度再現してくれるよう叔父に託したのでした。

 

 叔父は長年、地域で米作りに取り組んでおり、農業研究普及所と協力して3年がかりでチリペダイの再生に成功しました。叔父が見事にチリペダイを復活させたことで、長老の願いが叶ったばかりでなく、長く姿を消していたチリペダイエンモの味が今年私たちの生活に戻つてきました。50年にわたる日本の植民地支配、国民党の国政、キリスト教の影響により、先住民の伝統菓子は、主流の食生活や文化の影響を受け、入手しやすい材料を使った様々な種類のケーキやお菓子に取って代わられてきました。チリペダイエンモの味わいとは、他の材料ではなく古代の赤いもち米であるチリペダイを使って初めて再現できるものなのです。

 

 叔父の努力のおかげで、チリペダイエンモ特有の味と食感を再び甦らせることができました。私たちはまた、地域の青年組織と協力して、学校のカリキュラム、文化ツアー、地元のケータリング、伝統的なイ義式などを調整・統合し、この古代品種の農園の規模を拡大し、私たちの地域の精神生活にチリペダイエンモの本物の味を復活させるための次のステップに取り組んでいるところです。

 

アミッ・オレイ・パカドダン(ヒーラー)

SlowFoodHualiencommunityメンバー

ここに共有されている一つ一つのストーリーは、「(先住民である)自分自身のこれまでの歩みや取り組みを、個人的な喜びや葛藤も含めて伝えることで、この地球上のどこかで同じ様な壁に直面している仲間を励ますことができれば」「これから自分のコミュニティでも何かを始めたいと思っている人が、勇気をもって一歩前に進むきっかけになれば」という願いのもと、公開されています。

一方、先住民が大切に守り培ってきた文化や資源の盗用や、商業化による搾取の歴史は現代もなお続いています。そして、それは人々の無意識の内に起こっていることも多分にあります。ここに掲載されているストーリーや、登場する人や物・文化について、何かご活用をお考えの方は、無断で使用することなく、本人または事務局に一声かけ確認を取るなど、互いに敬意を払い、気持ちの良い関係を育んでくださいますよう、心よりお願い申し上げます。

国籍や民族、分野の垣根を超えて、よりよい社会づくりのために課題解決のために取り組む仲間として、情報交換をし、励ましあいながら、手を取り合って一緒に進んでいけることを願っています。
ご一読いただき、ありがとうございます。