本格的な郷土料理を味わう
私は、フィリピンのコルディリエーラ行政区カリンガ州パシル市にある、人口500人足らずの村のオーガニック実践者、ロウェナ・バヤンガン・ゴネイです。今回私がワークショップで紹介したレシピは、私たちのコミュニティで“イナンチラ’’と呼ばれている神聖なお菓子です。先住民の言葉で“チラ'’は舌を意味し、イナンチラという名前は、その形が人間の舌に似ていることを表しています。ここ数十年、さまざまな市販のお菓子が市場に出回るようになり、イナンチラは忘れ去られようとしています。
イナンチラの原料は、‘‘チャイコット”という先祖代々伝わる大変貴重な種類のお米です。この米は、先住民の文化に深く関わっている品種です。私たちパシル渓谷の人々にとって、チャイコットは祖先から受け継いだものなのです。その価値を認めることは、私たちの文化遺産に敬意を払うことであり、種を守るために畑で働くコルディリェーラの女性農家を支援することでもあるのです。ハイブリッド品種や高収量品種の導入により、先住民が植え、維持してきた本来の品種が忘れ去られようとしています。
そこで私は、チャイコットの生産と持続可能性を復活させるため、そして私たちの郷土料理の本物の味を守るために、チャイコットの継続的な栽培に力を注いでいます。加えて、私たちが長年実践してきた棚田での農業は、気候変動の影響を緩和し、生物多様性と環境を保護するのに役立っていることを意識していきたいです。受け継がれてきた知識を伝えるための、そして学ぶための最良の方法は実践すること。そこで私は土地の準備から収穫までの農業サイクルに若者を巻き込んできました。
しかし、チャイコットの栽培を推進するといっても、大規模な生産を望むわけではあリません。貴重なチャイコットやもち米の需要が増えれば、化学肥料を使って生産することも懸念されます。幸いなことに、地元政府は、より環境にやさしい有機肥料の生産・使用方法を農家に紹介・指導し、私たちを支援してくれました。
チャイコット米は、繁栄と食糧安全保障の象徴として、新婚夫婦への贈り物として贈られてきました。そのため、かつてはイナンチラは神聖なもので、新婚夫婦や、年長者を訪ねる時など特別な機会にだけ作られていました。そのお返しに、新婚夫婦は在来種の豚や牛などの動物を屠殺しました。イナンチラを作る過程では、特に若者の存在は重要です。力のある女性たちが米を掲いたり潰したりし、若者たちが出来上がったお菓子を配リました。
食が私たちの生活に果たす役割、そして食が私たちの文化的遺産と結びついていることを認識することが重要です。生物多様性を維持することは食の多様性を維持することでもあるのです。その地域ならではのレシピは、先人たちが代々受け継いできた豊かな食の遺産を反映して発展してきました。この事実は、これからさらに評価され、尊重される必要があります。私は、すべての先住民コミュニティにはおいしい、きれい、ただしい食があることを全世界に知らせたいという目標を持っています。
先住民であろうとなかろうと、すべての人は、すべての先住民の産物、特に私たちの文化と伝統に組み込まれた産物の保存と維持に力を合わせるべきだと考えています。
ロウェナ・バヤンガン・ゴネイ(料理人)
Slow Food On A i r パーソナリティ
Slow Food Community
Preserving local traditional/indigenous
knowledge of the food heritage of Pas i l メンバー